変身スーツ

 

 

今日は気分がいい。

口下手な僕でも、その日はお客様の前でどうどうと話せた。

 

「今日は何点だった?」

同行していた会社の同期で、大学の時からの友人に聞いた。

 

「そうだねぇ。んー80点!」

友人は笑いながら答える。

 

そいつとお客様の会社に向かった時は、毎回その友人に点数を聞くようにしている。彼はとにかく話がうまいのだ。

話している自分の様子はなかなか客観的に見ることが難しいので、話の上手なその友人に評価をお願いしている。

 

前回までは30点と言われていた僕にしては、今回の80点はかなりの高得点である。

 

 

 

 

実は、前日に眼鏡を新しく買っていた。縁は黒く丸みを帯びている。その眼鏡はフレームとレンズを合わせて60,000円もした。

ブランド物なのでちょっと高い眼鏡である。いや、めちゃくちゃ高い。

あまり物欲があるほうではないので、身につけるものでここまで高いものをかったことはほぼない。

ただ、なぜかその眼鏡だけは、妙に惹きつけられついつい買ってしまったのだ。大人からしてもなかなかな値段である。

 

 

小さな頃に見ていたヒーローは、『変身スーツ』を身にまとうことで体中に力を宿し、悪者に立ち向かっていた。

テレビの向こうで戦うヒーローは、強く・勇敢で・かっこいい。平凡な主人公は『変身スーツ』を着るだけでヒロインを守れるヒーローになれるのだ。

小さな頃はそんな『変身スーツ』に憧れたりしたものだった。

 

主人公を強くする『変身スーツ』は、テレビの向こう側だけにしかないのだろうか。僕らは変身することはできないのだろうか。

僕は、違うと思っている。

 

 

女の子はメイクをする。外見を綺麗に見せるのはもちろん、きっと心まで綺麗にしているのはないだろうか。

メイクがうまくできた日は、きっとその子の内面はより魅力的になっているのだろう。

 

男の子だってそうだ。鏡の前でワックスを手に取り、髪を整える。いつかの雑誌で見た整え方を覚えて、自分でやってみる。

しっかりと整えられた日は、きっと他の日の自分よりも胸を張っていられる気がする。

 

 

何が言いたいかというと、これが僕達にとっての心の『変身スーツ』なのではないかと思う。外見を理想の自分に近づけたり、何か自分にとって特別なものを持っていたり、そういった部分はきっと心に大きく影響している。

自分の外側の状態を自分自身が認識することで、内側がその外側に近づくのだ。

 

僕はボサボサの髪のままヒゲを生やして人と会ってしまうと、なんだかちょっと元気が薄れてしまう。

それは見た目もそうだが、心も暗くなっていることが一番の原因なのだろう。

 

人は自分自身をどう捉えているか、認識しているかで、性格が変化するのだ。

 

 

自分にとっての理想の『変身スーツ』を着よう。理想の自分でいよう。

理想の自分は一体どのような服装をしているだろうか。どのような髪型をしているだろうか。何を持っているだろうか。少し想像してみよう。

 

 

 

 

「もっと自信を持って話していいよ。」

とよく言われることがある。

 

「わかりました。ありがとうございます。」

と言いつつ、

自信なんてどうやったら持つことができるんだと何度も何度も悩んでいたことがある。今でもそうだ。

自信を持つなんて簡単にできることではない。

 

ただ僕はもう、自分にとっての『変身スーツ』を見つけた。あの時のヒーローのようにかっこよくヒロインを助けることはできないかもしれないが、僕自身は助けることはできるかもしれない。

 

 

 

 

明日も僕は、眠い目をこすりながら

『変身スーツ』を身にまとい、玄関を出る。